講談社の絵本ゴールド版85 ひげのおじいさんとつぼ

1962(昭和37)年2月号下
 ひげのおじいさんとつぼ  水上不二

 むかし、ある まちに、とても おこりんぼうで、けんかの すきな こどもが いました。
 きょうも、ともだちと けんかをして、おとうさんに しかられました。
「そんなに けんかの すきな こは、この うちからでて いきなさい。」
と、おもてへ だされて しまいました。
 よるに なって、あかるい おつきさまが でました。ひとりで おつきさまを みて いると、かなしくなりました。
「おとうさん、」ごめんなさい。
「ぼくがわるかったよ。」
なみだが、ぼろぼろと こぼれて きました。
 すると、どこからか、しろい ひげの おじいさんがきて、
「こどもよ、わたしの いう ことを ききなきい。」
と いいました。そして、じめんを とんと ふむと、おおきな つぼがでて きました。
 「あした、このつぼを せおって、まちを あるきなさい。だれが なんと いっても、けっして おこっては いけないよ。けんかを しては いけないよ。」
「はい。」
 あくるひ、こどもは、おおきな つぼを せおって、まちへ いきました。つぼを せおったまま、まちじゅうを あるきました。それを みて、まちの こどもたちは わらいました。
「おおきな つぼが あるいて くるよ」
「あっはっは。おかしいな。」
 みんなが、こどもを ゆびさして わらいました。こどもは、くやしくて たまりません。そのうえ、つぼは、だんだん おもく なって きました。それでも、こどもは、じっと がまんしながら、まちを あるきました。
 よるに なりました。ゆうべの おじいさんが、どこからか あらわれました。
「こどもよ、よく がまんした。そのこころを いつまでも なく しては いけないよ。」
 そう いって、つぼを ふりました。
 すると、たくさんの きんかが でてきました。
「これを もって、おとうさんの ところへかえりなきい。おかあさんも よろこぶだろう。」
 こどもは、いつの まにか、がまんづよくて、すなおな よいこに なって いました。きんかの はいったつぼを せおって、にこにこしながら、うちへかえって いきました。
        (おわり)

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この記事を書いた人

詩と童話の世界に魅了され、水上不二の作品をテーマにしたブログを運営しています。子どもの頃に読んだ彼の童話が心に深く刻まれ、それ以来、彼の詩や物語に込められたメッセージを探求し続けています。

文学を学ぶために大学で日本文学を専攻し、卒業後は国語教師として勤務。その後、自分自身の言葉で水上不二の世界を語りたいという思いから、ブログを立ち上げました。

趣味は読書、美術館巡り、そして詩の朗読。特に、水上不二の詩を声に出して読むと、彼の言葉が心に染み渡る瞬間があり、それが私の人生の喜びの一つです。

このブログを通して、水上不二の作品を通じた感動や発見を皆さんと分かち合い、詩と童話の世界を広げていけたらと願っています。

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