講談社の絵本ゴールド版92 いしやのぴえーとろ

1962(昭和37)年6月号上
 いしやのぴえーとろ  水上不二

 いしやの ぴえーとろは、はたらいても はたらいても、いつも びんぼうでした。そこで、ぴえーとろは、かみきまに おねがいしました。
 「わたしに、きんや ぎんの いっばい ついた がいとうを ください。」
 「よし、がいとうを やろう。」
 ぴえーとろは、がいとうを いただきました。」
いしやを やめて、がいとうに ついて いる きんや ぎんを うって、まいにち たのしくくらして いました。
 ところが、ある ひ、まちを あるいていると、うまに のった おとこに であいました。
「そうだ。かねもちに うまが ないなんておかしいや。かみさま、わたしに うまを ください。」
「よし、うまを やろう。」
ぴえーとろは、うまを いただきました。
まいにち うまを のりまわして、いちばへ かいものに いったり、ともだちの いえを たずねたり しました。
 「もっと とおくの、にぎやかな まちへ いこう。」
あつい ひでした。
おひきまが かんかん てりつけて、ぴえーとろは あせで ぴっしょりでした。とうとう うまが たおれてしまいました。
「ああ、なんと つよい おひさまだろう。かみさま、わたしを おひさまに してください。」
「よし、おひきまに して やろう。」
 ぴえーとろは、おひさまに なりました。あさから ばんまで、つよい ひかりを だしました。
 くさも きも さくもつも、かれそうになりました。ひとや けものも、あまりのあつさに たおれました。
「ああ、あめが ふれば いいなあ。」
 みんなが、そらを をがめて いいました。ある ひ、くもが とおって、おひさまを かくして しまいました。そらが くもって きて、あめが ふりだしました。
くさも きも さくもつも、みんな いきかえったように よろこびました。
「そうだ。わたしが くもだったら、どんなにいいだろう。かみさまわたしを くもに して ください。」
「よし、くもに して やろう。」
 びえーとろは、くもに なりました。
かみなりを おこして、いなぴかりを だし、あめを たきのように ふらせました。
 あらしを おこして、やねを ふきとばしたり、へいを こわしたり しました。
「どうだ、わしには かなうまい。わしほ、こんなに つよいんだ。」
 ところが、やまの うえの いわだけは、どんなに つよく ぶつかっても、ぴくとも しません。どっしりと すわって いました。
「ああ、なんて つよいんだろう。かみさま、わたしを いわに して ください。」
「よし、いわに して やろう。」
ぴえーとろは、いわに なりました。
もう、おなかも すかないし、のども かわきません。
ちからを いれて、しっかりと がんばって いました。
すると、ある ひの ことです。
 ひとりの おとこが やまを のぼって きて、がちんと のみを うちこみました。
ぴえーとろは ぴっくり しました。
「なんと つよい おとこだろう。わたしも こんな おとこに なりたい ものだ。かみさま、どうか おねがいします。」
「ああ、いいとも、いいとも。」
 きが つくと、ぴえーとろは、もとの いしやに なって、いつの まにか、じぶんの いえの みせさきに すわって いました。
「うわあ、もとの いしやに なって しまった。いしやが、こんなに えらい ものだとは ゆめにも しらなかった。さあ、しごとだ、しごとだ。」
 ぴえーとろは おおよろこびで、こつん こつんと いしを きりはじめました。
      (おわり)

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この記事を書いた人

詩と童話の世界に魅了され、水上不二の作品をテーマにしたブログを運営しています。子どもの頃に読んだ彼の童話が心に深く刻まれ、それ以来、彼の詩や物語に込められたメッセージを探求し続けています。

文学を学ぶために大学で日本文学を専攻し、卒業後は国語教師として勤務。その後、自分自身の言葉で水上不二の世界を語りたいという思いから、ブログを立ち上げました。

趣味は読書、美術館巡り、そして詩の朗読。特に、水上不二の詩を声に出して読むと、彼の言葉が心に染み渡る瞬間があり、それが私の人生の喜びの一つです。

このブログを通して、水上不二の作品を通じた感動や発見を皆さんと分かち合い、詩と童話の世界を広げていけたらと願っています。

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