講談社の絵本ゴールド版94 こいぬとにじ

1962(昭和37)年7月号上
 こいぬとにじ  水上不二

 こいぬが、のはらで あそんで いました。
 ばらばらと あめが ふってきました。こいぬは、まつの きのしたへ いって、いしの そばに さいて いる あかい はなを みて いました。
 あめは、いつの まにか やんで、むこうの そらに、きれいな にじが たちました。
 あか・だいだい・き・みどり・あお・あい・むらさきの、ななつのいろの たいこばしです。
 「にじだよ、にじだよ。」
 ことりが もりで うたいました。
 「わたりましょう、わたりましょう。」
 ちょうちょうが とんで いきました。
「わたしも いってみようかしら。」
 でも、こいぬは、なんだか しんぱいでした。おかあさんに だまって いっては わるいと おもいました。じっと たった まま、にじを みて いました。
 すると、にじは、しずかに きえて いきました。ふしぎです。きえて みえなく なりました。
 こいぬは、きえない うちに わたって いけば よかったなと おもいました。ことりや ちょうちょうは、あの はしを わたっていって、おまつりか なにか、おもしろい ものを みて いるだろうとおもいました。
 でも、こいぬは、あんなに、うつくしい ものを みた ことが うれしくて なりませんでした。
 とっとと おうちへ かけで いきました。そして、まどの ところから、おおきな こえで いいました。
「おかあさん、おかあさん、うつくしい ものを みましたよ。たいこばし、たいこばし、とても きれいな たいこばしを はじめてみましたよ。」
   (おわり)

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この記事を書いた人

詩と童話の世界に魅了され、水上不二の作品をテーマにしたブログを運営しています。子どもの頃に読んだ彼の童話が心に深く刻まれ、それ以来、彼の詩や物語に込められたメッセージを探求し続けています。

文学を学ぶために大学で日本文学を専攻し、卒業後は国語教師として勤務。その後、自分自身の言葉で水上不二の世界を語りたいという思いから、ブログを立ち上げました。

趣味は読書、美術館巡り、そして詩の朗読。特に、水上不二の詩を声に出して読むと、彼の言葉が心に染み渡る瞬間があり、それが私の人生の喜びの一つです。

このブログを通して、水上不二の作品を通じた感動や発見を皆さんと分かち合い、詩と童話の世界を広げていけたらと願っています。

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