講談社の絵本ゴールド版103 ふしぎなてーぶるかけ

1962(昭和37)年11月号下
 ふしぎなてーぶるかけ  水上不二

 ぶーつは、のはらの なかの ちいさな いえに、おかあさんと ふたりで すんでいました。
 びゅう、ぴゅうと きたかぜの ふく、さむい ひでした。
「ぶーつや。ものおきへ いって、こむぎこを も って きておく れ。」
 ブーツは、ぎの はちを もって、ものおきへ いきました。
 ふくろの こむぎこを はちに うつした とき、きたかぜが ぴゅうと ふいてきて、こなをふきとばしました。ぶーつとおかあさんはこまってしまいました。たべものは これしか なかったので
「よし きたかぜの ところへ いって、こなを かえして もらって くる。」
 ぶーつは おこって、きたかぜの ところへ でかけました。
「きたかぜさん、ふきとばした こなを かえして ください。ぼくの いえでは、たべものが なくなって、こまって いるんです。」
「それは」 わるかったね。では、こむぎこのかわりに、この てーぶるかけを あげよう。これを ひろげて、ごちそうを だせと いえば、ごちそうが たくさん でて くるよ。」
 ぶーつは、その てーぶるかけを もらってかえりました。とちゅうで ひが くれました。
 やどやに とまった ぶーつは、さっそく てーぶるかけを ひろげて、いいました。「ごちそうを だせ。」
 みる まに、おいしい ごちそうが たくさん でて きました。
 それを みて いた やどやの しゅじんは、よなかに そっと、ほかの てーぶるかけと すりかえました。それとは しらない ぶーつは、いえへ かえりました。
「おかあさん、きたかぜさんから、すてきな ものを もらって きましたよ。」
 さっそく てーぶるかけを ひろげて、
「ごちそうを だせ。」
と さけびましたが、なんにも でて きません。なんど やっても おなじです。
 ぶーつは、また、きたかぜの ところへ いきました。
「きたかぜさん、あの てーぶるかけは だめに なって しまいました。」
「それでは、きんかを だす ひつじを あげよう。」
「ありがとう、きたかぜさん。」
 かえる とちゅう、また、まえの やどやに とまりました。にわさきに ひつじを つないで、
「おかねを だせ。」
と いうと、きんかが たくさん でて きました。やどやの しゅじんは それをみて、ほかの ひつじと すりかえました。
 すりかえられたとは しらない ぶーつは、いえへ かえって、おかあさんの まえで なんども ためしましたが、なんにも でて きません。ぶーつは、また きたかぜの ところへ いきました。
「きたかぜさん、あの ひつじも だめです。」
「それは こまったな。こんどは、このつえを もって おいでつえよ、たたけと いうと、なんでも たたいて くれるよ。」
 ぶーつは、かえる とちゅうで、また まえの やどやに とまりました。でも、この やどやが あやしいと おもったので、べっどに はいっても、ねないで いました。よなかに なると、やどやの しゅじんが はいってきました。そして、つえを とろうと しました。その とき、
「つえよ、たたけ。」
と ぶーつが さけびました。つえは しゅじんを びしびしと たたきます。いくら にげても。おいかけて たたきつづけます。
「いたい、いたい。たすけて くれ。てーぶるかけも ひつじも けすから、ゆるして ください。」
と あやまりました。そこで、ぶーつは さけびました。 
「つえよ、やめろ。」
 つえは、たたくのを やめました。しゅじんは、じぶんの わるかったのに きが つき、ぶーつに あやまって、てーぶるかけと ひつじを かえしました。
 それから、ぶーつと おかあさんは、しあわせな ひを おくりました。 (おわり)

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この記事を書いた人

詩と童話の世界に魅了され、水上不二の作品をテーマにしたブログを運営しています。子どもの頃に読んだ彼の童話が心に深く刻まれ、それ以来、彼の詩や物語に込められたメッセージを探求し続けています。

文学を学ぶために大学で日本文学を専攻し、卒業後は国語教師として勤務。その後、自分自身の言葉で水上不二の世界を語りたいという思いから、ブログを立ち上げました。

趣味は読書、美術館巡り、そして詩の朗読。特に、水上不二の詩を声に出して読むと、彼の言葉が心に染み渡る瞬間があり、それが私の人生の喜びの一つです。

このブログを通して、水上不二の作品を通じた感動や発見を皆さんと分かち合い、詩と童話の世界を広げていけたらと願っています。

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