1963(昭和38)年4月号上
かしこいこじか 水上不二
とおい みなみの くにに、かんちーると いう こじかが いました。あるひ、みずを のみに、かわの そばへ いきました。
すると、みずの うえに、ぽっかりと きの ぼうが うかんで いました。
それは、ほんとうは わにでした。せなかを すこしだけ だして、ぼうのように みせかけ、こじかが ちかよった ところを、つかまえようと しているのでした。
こじかは、ぼうの うえに のろうとして、ちょっと へんだなと おもいました。それで、ひとりごとを いってみました。
「もしも、これが きの ぼうなら、ひっくりかえって、おなかを だすだろうな。」
すると、ぼうは、むくむくと うごいて、あおむけに ひっくりかえりました。
「あっはっは。ぼうが ひとりでに うごくものか。やっぱりわにさんだね。
かんちーるは、わらいながら にげていきました。
「よし、いまに つかまえて やるぞ。」
わには くやしがりました。こじかの いつも とおる みちの そばに、おおきな あなを ほりました。ある ひ、こじかが、そこを とおりかかりました。
「おや、のぶたさんが、こんな ところに ひっこして きたのかしら」
そっと あなを のぞいて みると、 わにが いるでは ありませんか。
こじかは、びっくりして にげだしました。そして、はやしの なかまで くると、こんどは、おそろしい とらに であいました。
こじかは、こわいのを がまんして いいました。
「とらさんは、のぶたの あなを ごぞんじですか。」
「なに、のぶたが いるって。」
とらは、こじかよりも、のぶたを たべたいと おもいました。
「その あなを おしえて あげましょう。」
「うん、つれてって くれ。」
かんちーるは、とらを つれて いきました。あなへ くると、とらは、すぐに とびこみました。まっていた わにが かみつきました。
うぉう うぉう。どたり ばたり。
しばらく して、とらは、
「なんだ、のぶたじゃ なかったのか。」わにも、
「そうか、かんちーるじゃ なかったのか。」
きが ついて、けんかは やめになりました。
とらは、かんかんに おこって、はやしの なかを あるきまわりました。そして、きの したに かくれて いる こじかを みつけました。
「こら、かんちーる。もう にがさないぞ。」
かんちーるは ふるえあがりました。でも、その とき、よい かんがえがうかびました。
「ああ、とらさん。きょうだけほ ゆるして ください。わたしは、いま、おうさまの おいいつけで、つりがねのばんを して いるのです。」
「なに、つりがねだって。それは おもしろい。わしに つかせて みろ。」
「いいえ、そんな ことを したら、おうきまに しかられます。」
「かまうものか。どうしても たたくぞ。どこに あるのだ。」
「あそこの きの えだにあります。」
とらは、きの えだに さがっている ちいさな かねを たたきました。さあ、たいへん。それは、ほちの す だったのです。
ぶんぶんぶん。ぶんぶん ぶん。
たくさんの はちが とびだしてきて、とらの かおや からだじゅうを、ちくり ちくりと さしました。
「うぉう うぉう。いたい いたい。」
とらは、かおじゅう こぶだらけになって、あわてて にげだしました。
「ああ、これで たすかった。」
こじかは、うれしそうに いいました。
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