昆虫列車 第17集 1 哭く「スサノヲの命」童謡組曲 日名子丹 

①イザナギは、亡くなったイザナミに逢いに黄泉の国へ行きます。しかし、共に帰ることは出来ず、変わり果てたイザナミの姿を見て逃げ帰ります。そこで、体を清めるのです。いわゆるみそぎです。川でみそぎをすると多くの神が生まれました。顔を洗った際に、右目から生まれたのが「アマテラス」、左目から生まれたのが「ツキヨミ」、鼻から生まれたのが「スサノヲ」でありました。イザナミは三神にそれぞれ治めるべき場所を与えます。ご存じのように「アマテラス」は天上界。「ツキヨミ」は夜の世界。そして「スサノヲ」は海の世界を治めるように命じられます。しかし、「スサノヲ」はその命令に従いませんでした。なぜか黄泉の国の母に会いたいと泣き叫ぶばかりでした。それがこの「哭く」の内容なのです。この「泣く」と「哭く」はどのように異なるのでしょうか。
 「哭く」の意味は「大声を高く上げて泣き叫ぶ」です。「哭く」は、シクシクと泣く、めそめそするというニュアンスとはかけ離れ、大声を張り上げておたけびをあげるように泣きわめくという意味で使われます。そのため「哭く」人をはたからみると、「一体、何があったのだろう」と思うでしょう。
 また、「哭く」には「人が亡くなった時に、死を悲しんで泣き叫ぶ儀式」を意味することがあります。つまり、深い悲しみを伴い、つらい気持ちを吐き出すように、声を上げて激しく泣くことを総称して「哭く」という言葉で表します。(引用:biz.trans-suite)
 この違いは、「古事記」の原文を見るとよく分かります。

故、各隨依賜之命、所知看之中、速須佐之男命、不知所命之國而、八拳須至于心前、啼伊佐知伎也。自伊下四字以音。下效此。其泣狀者、青山如枯山泣枯、河海者悉泣乾。是以惡神之音、如狹蠅皆滿、萬物之妖悉發。故、伊邪那岐大御神、詔速須佐之男命「何由以、汝不治所事依之國而、哭伊佐知流。」爾答白「僕者欲罷妣國根之堅洲國、故哭。」爾伊邪那岐大御神大忿怒詔「然者、汝不可住此國。」乃神夜良比爾夜良比賜也。自夜以下七字以音。故、其伊邪那岐大神者、坐淡海之多賀也。(引用:WEB風社~原文)

 いかがでしょう。私は「泣く」と「哭く」の違いを知ることができました。不二は初めの段「哭く」を配置することで、母を思う子供の姿を表現したのではないかと考えます。理由は必要ないでしょう。母を求める子供に理由はないのです。「をを、をを、をを」と声を上げて「母のそばに行きたい」と泣くのです。山を枯らしたり、海を干上がらせる勢いで泣くのです。周囲のことを考えないから子供です。しかし、周囲を忖度することがオトナというわけではありません。余計なことですね。
 父のイザナギは自分も、亡くなった妻イザナミを求めて黄泉の国へ行ったのに、子のスサノヲが母を求めて黄泉に国へ行くといったことに腹を立てたのです。イザナギは、スサノヲを追放するのです。父親は、子供があまり泣くので追い出してしまいます。現代に通じるものがありますね。そして、スサノヲは追放という命令に従うのですが、その前に姉の「アマテラス」に会いに行くのです。姉のアマテラスに暇乞いをしてから、黄泉の国に行くことにします。
四連目が他と異なります。原文にも相当する表現を見つけられません。とすればここに不二の思いがあるのではないでしょうか。
 「哭けばうれしい、ほろりとやさしい。」「たららんとお日さま照ってる。」この表現は、母に会えない悲しみの救いを姉に求めるのでしょうか。だから次の段の「まっしくら」につながるのしょう。

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この記事を書いた人

詩と童話の世界に魅了され、水上不二の作品をテーマにしたブログを運営しています。子どもの頃に読んだ彼の童話が心に深く刻まれ、それ以来、彼の詩や物語に込められたメッセージを探求し続けています。

文学を学ぶために大学で日本文学を専攻し、卒業後は国語教師として勤務。その後、自分自身の言葉で水上不二の世界を語りたいという思いから、ブログを立ち上げました。

趣味は読書、美術館巡り、そして詩の朗読。特に、水上不二の詩を声に出して読むと、彼の言葉が心に染み渡る瞬間があり、それが私の人生の喜びの一つです。

このブログを通して、水上不二の作品を通じた感動や発見を皆さんと分かち合い、詩と童話の世界を広げていけたらと願っています。

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