昆虫列車 第18集 11/12 あたらしい土/雲「スサノヲの命」童謡組曲 日名子丹

⑪⑫ 第十一段「あたらしい土」と第十二段「雲」は、「古事記」の原文上は分けることが難しいと感じました。
 原文では、「草薙剣」を「オオカミ(アマテラス)」に献上します。そして、出雲の国にあたらしい宮を作るのです。第十一段は農耕によって恵の多い土地になっていることが表現されています。
 つまり、あえて十一段と十二段の内容を入れ替えているように思います。

 出雲の国に宮を建てるにあたりスサノヲは詩を詠みます。

雲の叢(むらが)り起(た)つ出雲(いずも)の國の宮殿。
妻と住むために宮殿をつくるのだ。
その宮殿よ。

夜久毛多都 伊豆毛夜幣賀岐  (やくもたつ いづもやえがき)
都麻碁微爾 夜幣賀岐都久流 (つまごみに やえがきつくる)
曾能夜幣賀岐袁 (そのやえがきを)

 全体の構成、形式を改めて見てみると戦時下にあった不二の思いは、どんなものであったかと思わざるを得ません。
 「スサノヲ」は果たして「日本」なのかと、考えてしまいます。大陸に侵攻する「スサノヲ」の姿は、周辺国にとってどのように映ったのかと考えます。その中で、「スサノヲ」が起こした行為を子供たちにどのような形で伝えることが出来るのかを、苦心している不二の姿が見えます。

 教育者として不二は、子供たちに「伝える義務」を感じていたと思います。しかし、あからさまに体制批判することが出来る時代ではなかった。それ故、揺るぎない天皇制の根拠として記された「古事記」をテーマに組曲を作ったのだと私は考えます。
・「日名子丹」というペンネームにはどんな意味があるのか。なぜ「スサノヲノ命」という組曲を創作したのか。ということについて考えてみる。—-もともと、「水上不二」がペンネームということで「日名子丹」という名前にはあまり注目していませんでした。しかし「日名子」というのを偶然検索してみたら、実際に名字として存在していることが分かりました。失礼しましたって感じです。名字の由来については十分調べ切れていませんが、「大分県に五二〇人、福岡県に八十人、東京都に六十人など」と少数ではありますが実在する名字でした。とすると不二は、「日名子」というどなたかに影響をうけたのではないかと思いました。

 と、ここで、「古事記」と結びつく方が一人浮上するのです。それは、「日名子実三」という方です。日本の彫刻家。大分県臼杵市出身。八咫烏(やたがらす)を意匠とする日本サッカー協会のシンボルマークをデザインしたことでも知られる。この八咫烏が「古事記」の神武天皇を導く鳥です。彼が、制作に携わったのが宮崎県宮崎市の平和公園に位置する塔。一九四〇年の神武天皇即位紀元(皇紀)二六〇〇年を祝うにあたり、国は紀元二千六百年奉祝事業として宮崎神宮の拡大整備事業を行うことになった。実はこのことが、戦争にこの「古事記」が利用されるのです。
 そして宮崎県当局も「紀元二千六百年宮崎県奉祝会」を立ち上げ、県を挙げて奉祝することになった。当時の知事相川勝六(奉祝会会長も兼任)は、「八紘一宇(はっこういちう)の精神を体現した日本一の塔」を作る事を提案し、実行に移すことになった。 相川知事は大阪毎日新聞・東京日日新聞(いずれも毎日新聞の前身)に頼み、この塔を設計する彫刻家を公募した。(ウキペディアより)
 「八紘一宇」は「八紘為宇」というそうです。この言葉が「日本書紀」神武天皇の段に登場するのです。

三月辛酉朔丁卯、下令曰「自我東征、於茲六年矣。頼以皇天之威、凶徒就戮。雖邊土未淸餘妖尚梗、而中洲之地無復風塵。誠宜恢廓皇都、規摹大壯。而今運屬屯蒙、民心朴素、巣棲穴住、習俗惟常。夫大人立制、義必隨時、苟有利民、何妨聖造。且當披拂山林、經營宮室、而恭臨寶位、以鎭元元。上則答乾靈授國之德、下則弘皇孫養正之心。然後、兼六合以開都、掩八紘而爲宇、不亦可乎。觀夫畝傍山畝傍山、此云宇禰縻夜摩東南橿原地者、蓋國之墺區乎、可治之。」 (八(はつ)紘(こう)を掩(おお)ひて宇(う)に為(い)むこと)

三月七日、令ののりごとを下して言われた。
「東征についてから六年になった。天つ神(あまつかみ)の勢威のお蔭で凶徒は殺された。しかし、周辺の地はまだ治まらない。残りの災いはなお根強いが、内州(うちつくに)の地は騒ぐものもない。皇都みやこを開き広めて御殿を造ろう。しかし、今、世の中はまだ開けていないが、民の心は素直である。人々は巣に棲んだり穴に住んだりして、未開の慣わしが変わらずにある。そもそも大人ひじり(聖人)が制のりを立てて、道理が正しく行われる。人民の利益となるならば、どんなことであっても聖の行うわざとして間違いはない。まさに、山林を開き払い、宮室を造って謹んで尊い位につき、人民を安ずべきである。上は、天つ神あまつかみの国をお授け下さった御徳に答え、下は、皇孫の正義を育てられた心を弘めよう。その後、国中を一つにして都を開き、天(あめ)の下を掩(おお)いて一つの家とすることは、また良いことではないか。見れば、かの畝傍山(うねびやま)の東南の橿原の地は、思うに国の真中である。ここに都を造るべきである」

 当時宮崎県知事の「八紘一宇の精神を体現した日本一の塔」を作る事を提案し、実行に移すことになった。」ということを見て、その制作にかかわる「日名子実三」の名を借りて「日名子」を性とし、名を「丹」にしたのだと思います。「丹」というのは朱塗りです。「不老長寿の薬」です。「まごころ」という意味もあるそうです。あくまでも体勢に対して、弓引くものでないことを主張しながら、明日をつないでいくためには、未来の子供たちに現状をしっかり伝えなければならないと考えていたのだと思います。そのための「組曲スサノヲノ命」だったと考えます。「本来の意味がたとえどんなに素晴らしい普遍的はものであっても、その考えを歪曲し用いれば善は悪に変わる」ということだと思いました。

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この記事を書いた人

詩と童話の世界に魅了され、水上不二の作品をテーマにしたブログを運営しています。子どもの頃に読んだ彼の童話が心に深く刻まれ、それ以来、彼の詩や物語に込められたメッセージを探求し続けています。

文学を学ぶために大学で日本文学を専攻し、卒業後は国語教師として勤務。その後、自分自身の言葉で水上不二の世界を語りたいという思いから、ブログを立ち上げました。

趣味は読書、美術館巡り、そして詩の朗読。特に、水上不二の詩を声に出して読むと、彼の言葉が心に染み渡る瞬間があり、それが私の人生の喜びの一つです。

このブログを通して、水上不二の作品を通じた感動や発見を皆さんと分かち合い、詩と童話の世界を広げていけたらと願っています。

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