講談社の絵本ゴールド版102 みんなのりんご

1962(昭和37)年11月号上
 みんなのりんご  水上不二

 ふんらすの くにの しずかな むらです。みちばたに、りんごの なみきが つづいて います。どの きにも、あかくて おおきな りんごが、たくさん なって います。
 おいしそうに ひかって います。
 でも、りんごは むらの ものですから、こどもも、えだなど ゆすりません。むしを とったり、かみぶくろを かぶせたり します。りんごほ みんなの ものですから、おちて いると、ひろって、ねもとに ならべて おきます。だれも、だまって もって いったりは しません。
 そのうちに、やくぼから かかりの ひとが きて、りんごを あつめて いきます。えだから もいだのといっしょに、くるまに つんで、ころころと ひいて いきます。りんごは、むらの こうばで じゃむに します。
「はい、あんぬちゃん、じやむですよ。」
「はい、ぽーるくん、じやむですよ。」
 むらの いえいえに、おいしい じゃむを くぼります。
「ありがとう」
「ありがとう」
どこの いえでも おおよろこびです。
「おいしい じゃむだ。」
「いい、じゃむだ。」
 むらの ひとは、みんな にこにこです。
「ぱんに つけよう」
「おかしを つくろう」
「まちの おじさんにも、
とどけて あげよう」
 ふらんすの くにの しずかな むらは、じやむの においで いっぱいです。
 まもなく、よるに なりました。しずかな むらの うえに、あかい おつきさまが のぼります。むらの みんなの りんごのように、せかいで ひとつの りんごのように、まるくて おおきな おつきさまです。
「かとりーぬちゃん、こんばんは。」
「あんりーくん、こんばんは。」
 おつきさまは、そう よび かけて いるようでした。
          (おわり)

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この記事を書いた人

詩と童話の世界に魅了され、水上不二の作品をテーマにしたブログを運営しています。子どもの頃に読んだ彼の童話が心に深く刻まれ、それ以来、彼の詩や物語に込められたメッセージを探求し続けています。

文学を学ぶために大学で日本文学を専攻し、卒業後は国語教師として勤務。その後、自分自身の言葉で水上不二の世界を語りたいという思いから、ブログを立ち上げました。

趣味は読書、美術館巡り、そして詩の朗読。特に、水上不二の詩を声に出して読むと、彼の言葉が心に染み渡る瞬間があり、それが私の人生の喜びの一つです。

このブログを通して、水上不二の作品を通じた感動や発見を皆さんと分かち合い、詩と童話の世界を広げていけたらと願っています。

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