講談社の絵本ゴールド版109 金のりんご

1963(昭和38)年2月号下
 金のりんご  水上不二

 「金のりんご」は、アイルランドの詩人イェーツの編んだ「アイルランド童話集」の中の「コン=イーダの話」、またの名「アーン湖の金のりんご」によったもので、大昔、アイルランドが、西方の幸福の島と呼ばれていたころの話です。
 人民の敬愛を一身に集めていたイーダ王子は、いろいろな困難と戦って、金のりんごや魔法の黒うまなどを探し出し、新しい母親の難問にこたえます。
 そして、イーダ王子を助け励ましたむく毛のうまも、その献身と友愛とによって、自身にかけられていた魔法を解くことになるという、二人の王子の物語です。
 この王子たちの勇ましい行動は、現実に負けないで、明るい未来に立ち向かう子供たちの心と、すぐに通じあうことでしょう。

 むかし、ある くにに、えらい おうさまが いました。おうさまには、いーだという おうじが ありました。
 おうじは、いさましく なさけぶかいので、ひとびとから たいへん うやまわれて いました。
 ところが、とつぜん かなしい ことが おこりました。おかあさまが なくなられたのです。
 おうさまは、しばらく すると、あたらしい おきさきを むかえました。
 おきさきは みんなから うやまわれて いる おうじを にくらしく おもいました。あるばん、まほうつかいの ところへ いって、おうじを おしろから おいはらう そうだんを しました。まほうつかいは、おきさきの みみに くちを よせて、なにか いいました。
「それが できなかったら、しまながしに して しまいなさい。」
 おきさきは、まほうつかいがいったように、おうじを よんで しょうぎを さしました。おきさきが かちました。
「きんの りんごと、くろうまと、はなしの わかる いぬをもって おいでなさい。」と、いいつけました。二どめはおうじが かちました。みっつの ものを みつけて くるまで、おきさきは、おしろのとうに たって いる ことになりました。
 その つぎの ひ、おうじは、しろいうまに またがって、ひとりで おしろの もんを でて いきました。
 おきさきと やくそくした、みっつのものを さがしに いくのです。
 おきさきも、やくそくどおり、おしろの とうの うえに たって います。
 おうじは、たびの とちゅうで、えらい おぼうさんに あってわけを はなしました。
おぼうさんは、ふしぎな ちからを もった けのながい うまを ゆぴさして いいました。
「あの うまに のって いくと、ひとの かおを した とりに あいますから、この ほうせきを あげなさい。きっと たすけて くれるでしょう。」
 けの ながい うまに のってすすんで いくと ひとの かお をした ふしぎな とりにあいました。
おぼうさんに もらった ほうせき をさしだしました。
「いーだおうじさま、あなたの あしもとの いしを とりのけて、てつのたまを とりだしなさい。その たまを じめんに なげて、その あとを おいかけなさい。」
 いしを とりのけると、てつの たまがでて きました。てにとってなげると、たまは ころころところがりだしました。
 おうじは、うまを はしらせて、どこまでも おいかけました。そして、みずうみの そばまで きました。
「あっ。」
 てつの たまは、みずうみの なかへ おちて しまいました。
「おうじさま、これからが たいへんなのです。でも、ごしんぱいなく、げんきを だして すすんで ください。」
 ふしぎな うまは、おうじを のせたまま みずうみに とびこんで、みずの なかを ぐんぐん はしって いきます。
 ふしぎな ことに、おうじは ちっとも くるしく ありません。
 みずうみの そこを わたって きしに あがると、三びきの どくへびが はいまわって います。
「おうじさま、おちついて やって ください。わたしの みみの なかにある にくの かたまりを とって、わたしが へびの うえを とびこえる とき、なげて おやりなさい。」
 へびたちが、にくを とりあって いる あいだに、おうじは、ぶじに そこを とびこえる ことが できました。
 また、てつの たまを おって すすんで いくと、まっかに もえて いる ひの やまが みえて きました。
「すこし あぶないけれど、あの うえを とびこえますから、しっかり つかまって いて ください。」
 おうじは うまの たづなを にぎりしめました。ふしぎな うまは、 ぱっと ひの やまを とび こえました。
 なおも すすんで いくと、いしの へいに かこまれた おおきな まちが みえました。すると、うまは、きゅうに げんきが なくなりなりました。
「どう したの。どこか わるいの。」
 おうじが きくと、うまは かなしそうに くびを たれました。
「ここで あなたと わかれなければ なりません。わけが あって、わたしは、あの まちへ はいることが できないのです。」
いろいろな なんぎを のりこえて、ここまで じぶんを つれて きてくれた うまと わかれるのは つらい ことでした。
 なんども わけを たずねましたが、うまは だまって くびを ふるばかりです。おうじは、しかたなく、ひとりで まちへ はいって いきました。
 まちは たいへん にぎやかでしたが、うまと わかれた かなしさで、なにも めに はいりませんでした。
 どうしても うまの ことが きに なって、おうじは、もとの ところへ もどって きました。
 すると、ふしぎな うまは しんで いるでは ありませんか。おうじは びっくりしました。その とき、うまの からだから しろい けむりが でて、その なかに うつくしい おうじが にっこり わらって たって いました。
「おうじさま、わたしは この くにの おうじです。ちいさい ときに いたずらが すぎて、あの おぼうさんに うまに されて いたのです。あなたの おてつだいを したので、もとの すがたに もどる ことが できたのです。」
 うまに されて いた おうじは、いーだおうじを じぶんの おしろへ あんないしました。おしろへ つくと、おうさまが よろこんで ふたりを むかえました。いーだおうじは これまでの ことを おうさまに はなしました。
 おうさまは、きんの りんごと、くろうまと、はなしの わかる いぬをおくりました。 いーだおうじは、みっつの ものを いただいて、おしろの ひとたちに みおくられて かえって いきました。
 くろうまが まほうの ちからを もって いるので、かえりは、ひの やまも、みずうみも ひととびでした。
 いーだおうじが、やくそくどおり、みっつの ものを もって かえったのを みると、おきさきは おどろいて、とうの うえから おちて しんで しまいました。
 おうじは、もらって きた きんのりんごの たねを にわに まきました。きんの りんごは ぐんぐん そだって うつくしい きんの りんごを みのらせました。おうじの くには それから ますます さかえました。        (おわり)

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この記事を書いた人

詩と童話の世界に魅了され、水上不二の作品をテーマにしたブログを運営しています。子どもの頃に読んだ彼の童話が心に深く刻まれ、それ以来、彼の詩や物語に込められたメッセージを探求し続けています。

文学を学ぶために大学で日本文学を専攻し、卒業後は国語教師として勤務。その後、自分自身の言葉で水上不二の世界を語りたいという思いから、ブログを立ち上げました。

趣味は読書、美術館巡り、そして詩の朗読。特に、水上不二の詩を声に出して読むと、彼の言葉が心に染み渡る瞬間があり、それが私の人生の喜びの一つです。

このブログを通して、水上不二の作品を通じた感動や発見を皆さんと分かち合い、詩と童話の世界を広げていけたらと願っています。

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