講談社の絵本ゴールド版112 かしこいこじか

1963(昭和38)年4月号上
 かしこいこじか  水上不二

 とおい みなみの くにに、かんちーると いう こじかが いました。あるひ、みずを のみに、かわの そばへ いきました。
 すると、みずの うえに、ぽっかりと きの ぼうが うかんで いました。
 それは、ほんとうは わにでした。せなかを すこしだけ だして、ぼうのように みせかけ、こじかが ちかよった ところを、つかまえようと しているのでした。
 こじかは、ぼうの うえに のろうとして、ちょっと へんだなと おもいました。それで、ひとりごとを いってみました。
「もしも、これが きの ぼうなら、ひっくりかえって、おなかを だすだろうな。」
 すると、ぼうは、むくむくと うごいて、あおむけに ひっくりかえりました。
「あっはっは。ぼうが ひとりでに うごくものか。やっぱりわにさんだね。
 かんちーるは、わらいながら にげていきました。
 「よし、いまに つかまえて やるぞ。」
 わには くやしがりました。こじかの いつも とおる みちの そばに、おおきな あなを ほりました。ある ひ、こじかが、そこを とおりかかりました。
「おや、のぶたさんが、こんな ところに ひっこして きたのかしら」
 そっと あなを のぞいて みると、 わにが いるでは ありませんか。
 こじかは、びっくりして にげだしました。そして、はやしの なかまで くると、こんどは、おそろしい とらに であいました。
 こじかは、こわいのを がまんして いいました。
「とらさんは、のぶたの あなを ごぞんじですか。」
「なに、のぶたが いるって。」
 とらは、こじかよりも、のぶたを たべたいと おもいました。
「その あなを おしえて あげましょう。」
「うん、つれてって くれ。」
 かんちーるは、とらを つれて いきました。あなへ くると、とらは、すぐに とびこみました。まっていた わにが かみつきました。
 うぉう うぉう。どたり ばたり。
 しばらく して、とらは、
 「なんだ、のぶたじゃ なかったのか。」わにも、
「そうか、かんちーるじゃ なかったのか。」
 きが ついて、けんかは やめになりました。
 とらは、かんかんに おこって、はやしの なかを あるきまわりました。そして、きの したに かくれて いる こじかを みつけました。
「こら、かんちーる。もう にがさないぞ。」
 かんちーるは ふるえあがりました。でも、その とき、よい かんがえがうかびました。
 「ああ、とらさん。きょうだけほ ゆるして ください。わたしは、いま、おうさまの おいいつけで、つりがねのばんを して いるのです。」
 「なに、つりがねだって。それは おもしろい。わしに つかせて みろ。」
 「いいえ、そんな ことを したら、おうきまに しかられます。」
「かまうものか。どうしても たたくぞ。どこに あるのだ。」
「あそこの きの えだにあります。」
 とらは、きの えだに さがっている ちいさな かねを たたきました。さあ、たいへん。それは、ほちの す だったのです。
 ぶんぶんぶん。ぶんぶん ぶん。
 たくさんの はちが とびだしてきて、とらの かおや からだじゅうを、ちくり ちくりと さしました。
「うぉう うぉう。いたい いたい。」
 とらは、かおじゅう こぶだらけになって、あわてて にげだしました。
「ああ、これで たすかった。」
 こじかは、うれしそうに いいました。

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この記事を書いた人

詩と童話の世界に魅了され、水上不二の作品をテーマにしたブログを運営しています。子どもの頃に読んだ彼の童話が心に深く刻まれ、それ以来、彼の詩や物語に込められたメッセージを探求し続けています。

文学を学ぶために大学で日本文学を専攻し、卒業後は国語教師として勤務。その後、自分自身の言葉で水上不二の世界を語りたいという思いから、ブログを立ち上げました。

趣味は読書、美術館巡り、そして詩の朗読。特に、水上不二の詩を声に出して読むと、彼の言葉が心に染み渡る瞬間があり、それが私の人生の喜びの一つです。

このブログを通して、水上不二の作品を通じた感動や発見を皆さんと分かち合い、詩と童話の世界を広げていけたらと願っています。

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